2024年04月09日

令和5年度 在宅医療連携強化事業 在宅医療医薬連携研修会
「在宅訪問薬剤師の役割と多職種連携について」(2024/3/24開催)

医師研修会

在宅医療連携強化事業の一環として、多職種を対象とした在宅医療における医薬連携の在り方や、在宅訪問薬剤師の役割と多職種連携について学ぶため、2024年3月24日(日)に岐阜県医師会館にて研修会を実施。第1部では「薬剤師による在宅訪問の実際〜多職種へつなげる処方提案〜」、第2部では「医療材料について〜薬剤師から伝えたいこと〜」と題して講演いただきました。

開会の挨拶

はじめに岐阜県医師会の伊在井みどり会長から「在宅医療ではIVH(在宅中心静脈栄養)の器具の取り扱い、禁忌薬の多い薬の増加、CKD(慢性腎臓病)の患者様への処方など課題も多い」「これから特に在宅医療が大切になってくる中で、往診していた患者様を最後まで診ていくことがかかりつけ医の願い」「在宅医療での医薬品の取り扱いについて、薬局の方と顔の見える関係を築き、問題点を明らかにしていきたい」との挨拶で開会しました。

岐阜県医師会 伊在井みどり会長

第1部「薬剤師による在宅訪問の実際〜多職種へつなげる処方提案〜」

第1部では、平成調剤薬局川部店(岐阜市川部)の薬剤師として活躍する岐阜県薬剤師会薬局機能委員会委員の中嶋亜紀氏から「薬剤師による在宅訪問の実際〜多職種へつなげる処方提案〜」と題して、「薬剤師は何ができるのか?」「在宅訪問でしていること」「症例紹介」について講演いただきました。

第1部講演の様子

中嶋氏は在宅訪問薬剤師として在宅の患者様35名と、施設に入居する患者様35名、計70名を訪問。薬局に勤める他の薬剤師と情報を共有しながら、1歳から100歳まで幅広い世代の患者様を担当しています。

岐阜県薬剤師会 薬局機能委員会 委員 中嶋亜紀氏

薬剤師は何ができるのか?

「薬剤師の業務において『薬剤師法第1条』に記載される調剤、医薬品の供給、薬事衛生とともに、『国民の健康な生活を確保する』という一文が何より重要だと考えています。薬剤師の業務は『対物から対人へ』と言われる通り、人との関わりを大切にしながら日々の業務を行っています」と中嶋氏。

薬剤師の主な業務には、調剤、服薬指導、服薬フォローアップ、服薬情報提供などがあります。服用方法や薬効、保管方法など、安全に適切に薬物療法が継続できるよう服薬指導を実施すること。服薬フォローアップとして、新しい薬を提供した1〜2週間後に薬局から連絡し、健康状態の変化や副作用の有無などを確認することが挙げられます。また、服薬情報提供においては、医療機関をはじめ、ケアマネジャーにも情報提供しており、その情報提供書に対して確認した旨、返信があるとうれしいとも伝えられました。

在宅訪問でしていること

薬剤師が在宅訪問できる患者様は、来局が困難で在宅で療養を行っている患者様に限られ、主治医の訪問診療の有無は関係なく、主治医からの「訪問薬剤管理指導指示」が必要となります。「在宅訪問には医療保険と介護保険の算定がありますが、介護保険が優先となるため、介護保険申請中の場合は薬剤師に伝えてほしい」と中嶋氏。

在宅訪問は、「処方箋の受付」「調剤」「訪問」「報告」の順で繰り返し実施。訪問時には薬のセットをはじめ、服薬状況や体調変化、残薬の確認などを行います。薬のセットでは、患者様の身体機能や認知機能、利用しているサービスなどに合わせて最適な方法を考案。お薬カレンダーを利用するのか、日めくりにした方がわかりやすいのか、どんなメッセージを残すと混乱しないのか、訪問看護師やヘルパーに相談しながら決定しています。

自宅を訪問することで服薬管理だけでなく、食欲や排便、痛み、皮膚状態など、在宅訪問で収集できる情報は多く、指導報告書に記入して主治医やケアマネジャーに報告。情報の共有により多職種で連携して薬の管理ができる環境を整えています。

症例紹介

在宅訪問薬剤師の現場では「排泄」と「痛み」に関する相談が多く、いくつかの症例について紹介がありました。

排便方法で悩まれている患者様の場合、どのような薬を使用して、いつ、どこで、だれが、どうやって排便をコントロールするのか。例えば、訪問看護が座薬を入れて、1時間後にヘルパーがおむつやシーツを交換するなど、患者様とご家族、訪問看護やヘルパーとタイミングを相談して、主治医に処方提案を実施。排便コントロール後に、その効果をアセスメントして報告しています。

がんの終末期にある患者様の場合、苦痛を軽減する方法や薬を切り替えるタイミングなどを考え、中止や減薬も視野に、患者様の負担を減らせるよう薬剤師から処方提案を行うこともあります。患者様にとって心の拠り所となっている薬もあるため、薬に対する思いを聞き取りながら慎重に、主治医をはじめ、患者様やご家族、多職種と相談して剤形や投与経路を考えます。疼痛コントロールを評価しながら処方変更に対応し、服薬が困難となる前にモルヒネ持続皮下注へ切り替え、穏やかな最期を迎えることができたといった事例の紹介もありました。

「在宅訪問では、体調を確認した上で薬の評価を行い、次にどのように対応すればよいか、診療前に薬剤師からの情報提供があればスムーズな往診につながり、今後の連携強化にもつながるため、お互いに情報共有ができる関係を築いていきたい」と講演を締めくくりました。

第2部「医療材料について〜薬剤師から伝えたいこと〜」

第2部では、岐阜県薬剤師会薬局機能委員会委員の青木翔太氏から「医療材料について〜薬剤師から伝えたいこと〜」と題して、保険医が投与可能や注射薬や薬局で取り扱う特定保険医療材料に関する注意点や依頼事項などについて講演いただきました。

第2部講演の様子

特定保険医療材料とは、医療機器や保険医療材料などのうち、処置料・薬剤料などとは別に診療報酬請求することができる医療材料のことです。薬局で保険処方箋に基づき交付できる特定保険医療材料は14種類(2021年4月現在)となっています。特定保険医療材料と定義されるかは「類別」と「一般名」で確認できます。

「在宅医療で院外処方するために薬局で調剤できる注射薬製剤は現在115種類。同効薬であっても院外処方できない薬剤もあり、処方に迷われた場合は薬局にお問い合わせください。今後も増加する傾向にあり、最新の情報を入手し、処方決定に貢献したい」と青木氏。

岐阜県薬剤師会 薬局機能委員会 委員 青木翔太氏

注射器や注射針のみでの処方箋交付はできないため、注射薬製剤とセットでの処方が必要です。また、「在宅中心静脈栄養用輸液セット」などを処方する場合、薬局では償還価格が納入価格を下回る「逆ざや」が生じてしまうケースがあり、「在宅中心静脈栄養用輸液セット加算」など、薬局からはセット加算での算定が理想であると伝えられました。

輸液の無菌調整に対応している薬局は「地域連携薬局一覧」または「ぎふ医療施設ポータルサイト」で確認できます。地域連携薬局とは、医療や介護の関係施設と連携しながら患者様を支えていく薬局のこと。岐阜県では2024年1月末時点で50の薬局が認定されています。

「無菌調整の設備を自薬局で持たない薬局でも登録できるため、すぐに無菌調整が必要な場合は事前にお問い合わせください。また、あらかじめ薬剤が輸液パックに充填された『高カロリー輸液用キット製剤』を処方いただくと無菌調整の設備のない薬局でも対応が可能です」と青木氏。

これまでは薬を調剤して患者様に届けるのが薬剤師の役割と認識されてきましたが、これからは患者対応の充実、服薬期間中のフォローアップ、在宅訪問、医療・介護関係機関との連携などができる薬剤師が求められています。地域包括ケアシステムにおいても様々な場面で薬剤師が関わり、医療や介護、予防など地域の様々なサービスを提供する役割が可能となっています。

「ポリファーマシーの問題や腎機能低下による薬物動態など、薬剤特有の情報をアカデミックに考察し、主治医をはじめ多職種と連携して、チームとして医療に関わっていきたい。『薬あるところに薬剤師あり』と言われるように、まずは顔が見える関係を築き、薬あるところに薬剤師が呼ばれる環境を作れるよう精進していきたい」と講演を締めくくりました。

各講演後には質疑応答も行われました

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