令和7年度 岐阜県医師会県民健康セミナー・岐阜県認知症理解普及講座
「認知症とともに生きる」(2025/12/7開催)
セミナー
岐阜県医師会と岐阜県では、地域における認知症理解の普及と認知症高齢者やその家族への支援体制の構築に向けた取り組みを推進しています。2025年12月7日(日)に大垣市にある「大垣フォーラムホテル」にて、講演会とパネルディスカッションを開催しました。

会場となった「大垣フォーラムホテル」
岐阜県医師会の伊在井みどり会長の挨拶に続き、岐阜県認知症サポート医であり、大垣病院認知症疾患医療センター長の田口真源先生による「認知症とからだとの意外な関係~生活習慣を見直して認知症予防につなげましょう~」と題した特別講演と、「認知症になっても暮らしやすい社会を目指して」と題したパネルディスカッションを実施しました。

会場となった「大垣フォーラムホテル 旭光の間」には多くの聴衆が集まりました
開会の挨拶
はじめに岐阜県医師会の伊在井みどり会長から「団塊の世代が75歳以上を迎える2025年問題を経て、家庭での介護の担い手不足、医療・介護の人材不足という状況にあって、認知症とともに生きるために関係者の連携が必要である」「連携を深めることで多くのサポートと知識を得て、認知症に対応できるようになる」「認知症とともに生きるためにいかに連携するのか、西濃地区における課題と今後の展望について皆さまと考えたい」との挨拶で開会しました。

開会の挨拶 伊在井みどり会長
特別講演
特別講演では、「認知症とからだとの意外な関係~生活習慣を見直して認知症予防につなげましょう~」と題して、岐阜県認知症サポート医であり、大垣病院認知症疾患医療センター長の田口真源先生にご講演いただきました。

特別講演 田口真源先生(医療法人静風会大垣病院理事長・院長)

特別講演会のようす
アルツハイマー型認知症の経過
認知症について全体像を把握するのは難しく、なぜ発症するのか正しく理解できている人はいないと言われますが、今わかっていること、今できることについてお話ししたいと思います。一般的に、20~30年でアミロイドベータ(Aβ)が神経細胞内に蓄積した後、2~3年でリン酸化タウが蓄積し、その間にSCI(主観的認知機能低下)、MCI(軽度認知機能障害)を経て、アルツハイマー型認知症を発症するとされます。
SCIは本人が認知機能の低下を自覚している状態、MCIは認知機能の低下に違和感がありながらも生活に支障をきたすほどではない状態のことですが、SCI から必ずMCIになり、MCIから必ず認知症になるというものではありません。注意力が低下したり、忘れ物が増えたりSCIやMCIの原因には、難聴やうつ病、睡眠障害、糖尿病など、中年期の病気と関わりがあり、予防することで認知症予防にもつながると考えられています。
認知症の一次予防
予防には、健康を増進し、発病を予防する「一次予防」と、「二次予防(早期発見・早期治療)」、「三次予防(リハビリテーション)」があります。今回のテーマである「認知症とともに生きる」という共生社会では、二次予防、三次予防が注目されますが、認知症にならないことも重要だと考え、今回は私のライフワークでもある一次予防についてお話しします。
■難聴と認知症
「聴力障害により情報の入力量が減り、認知機能に影響を与えて社会参加が少なくなり、間接的に認知機能が低下する」という「カスケード仮説」と、「聴力障害を補うために認知機能が費やされ、脳機能が不十分となり認知機能が低下する」という「認知負荷仮説」があり、難聴により認知症が発症しやすいといわれ、補聴器による認知症予防が有効とされています。
■うつ病と認知症
うつ病になると海馬の体積が小さくなり、症状が改善すると体積が戻るといわれます。そのため、うつ病の再発を繰り返すと認知症発症のリスクが高くなり、再発のたびに14%リスクが増えるともいわれています。
■睡眠と認知症
高齢者において睡眠時間が7時間以上と6時間以下の人を比べると、7時間以上の人はアミロイド沈着が少ないことがわかりました。しかし、5時間未満と10時間以上の睡眠時間で、認知症と死亡のリスクが高いとされ、長く眠るほど健康によいとは限りません。10時間以上でも睡眠の質がよくないケースもあり、蓄積したAβをスムーズに分解・排泄できず、認知症発症のリスクが高まるとされています。
■糖尿病と認知症
高血糖そのものが認知症発症のリスクとされています。データによると血糖値が高め(平均血糖値115mg/dl)の人は正常な人と比べて認知症発症率が18%高く、糖尿病患者で平均血糖値が190mg/dlの人は160mg/dlの人より認知症発症率が40%高いとされています。40%というのは見逃せない確率であり、認知症予防の側面からも糖尿病(特に高血糖)に向き合っていく必要があると考えます。
まとめ
このように認知症発症のリスクファクターが解明されつつあり、今まで以上に一次予防として、中年期の医療への取り組みが重要であると思われます。
パネルディスカッション
パネルディスカッションでは、「認知症になっても暮らしやすい社会を目指して」をテーマに、パネリスト4名による活動紹介をもとに、コーディネーターとして岐阜県認知症サポート医の美濃輪博英先生(岐阜県医師会常務理事)と河瀬晴彦先生(岐阜県医師会医療・介護・福祉連携委員会委員)を交えた意見交換を行いました。

パネリスト4名による活動紹介のようす
パネリスト活動紹介1
認知症の人と家族の会の活動&認知症の本人と家族の思い
認知症の人と家族の会岐阜県支部副代表・西濃地区世話人代表の臼井浪子氏より、会の活動と本人と家族の思いについて紹介されました。西濃地区のつどいとして、女性介護者とは異なる視点で話し合う「男性介護のつどい」や、看取りを終えた家族が集まる「グリーフのつどい」など、介護を経験した人同士が思いを共有する様々なつどいを開催していること。定期的な会報誌の配布や電話相談を実施していること。介護者を対象とした「家族支援プログラム」では、毎月1回・半年間の講座で、介護について正しい知識を持つことで悩みなどを解決していること。毎月21日に奥の細道芭蕉記念館で実施する認知症カフェ「ぽ~れぽ~れ」や、カフェなどで語られる認知症本人や介護者家族の思いなどについて語られました。
パネリスト活動紹介2
大垣市が目指す「認知症にやさしいまちづくり」
大垣市健康福祉部高齢福祉課主幹の後藤実穂子氏より、大垣市が目指す「認知症にやさしいまちづくり」に向けた取り組みが紹介されました。認知症に関する普及啓発及び予防の推進として各種講座・研修会の実施状況と成果について、医療・ケア・介護サービス・介護者への支援としてGPSを貸与する「位置情報提供サービス」などについて、認知症バリアフリー推進・社会参加への支援として、行方不明者の早期発見のために交付する「見守りシール交付事業」などについて紹介。大垣市では認知症になっても住み慣れた地域で、その人らしい生活が続けられるよう、予防から早期発見、医療・介護、地域での見守りまで、切れ目のない支援体制を整えていること、また、些細なことでも相談してほしい、困っている方に大垣市の活動をご案内してほしいと語られました。
パネリスト活動紹介3
若年性認知症の方の就労に関する取組等
岐阜県若年性認知症支援コーディネーターであり、大垣病院の精神保健福祉士として勤務する坂池良太氏より、若年性認知症支援センターの概要と合わせて、各都道府県に1名以上配置される若年性認知症支援コーディネーターの役割と課題について紹介されました。若年性認知症は発症から介護保険利用までの期間が長く、その間の居場所づくりや社会参加が課題となります。認知症の進行や症状は個人差があり、家庭や職場もそれぞれ状況が異なります。本人、家族、会社とともに考え、コーディネーターとして会社との面談に同席すること。会社のサポートや行政サービスの活用で可能な限り働き続けられること。認知症になっても希望を持って日常生活を過ごせる社会を目指し、認知症の人や家族の視点を重視しながら、これからも活動を続けたいと語られました。
パネリスト活動紹介4
認知症とともに生きる~認知症の方に対する詐欺対策等~
大垣警察署生活安全課長の波戸祥宏氏より、岐阜県及び大垣市の詐欺被害の現状と、認知症の方に対する詐欺対策について紹介されました。認知症の方が必ず被害者になるわけではなく、20代、30代でも被害者になるケースもあり、特殊詐欺=高齢者という認識もなくなっていること。固定電話による詐欺被害対策として、防犯機能付き電話機の設置やナンバーディスプレイの導入、国際電話の発着信休止などを促していること。詐欺被害を防ぐために「慌てない、動揺しない」「お金の話は電話を切って誰かに相談」「警察は事前に逮捕するとは伝えない」などの対策の周知を徹底していること。警察は何かあってから動くだけでなく、高齢者を訪問して近況を確認し、解決策を模索するなど、関係機関との協力、相談にも応じていることなどについて語られました。
ディスカッション

パネリスト4名による活動紹介をもとにパネルディスカッションを開催
パネリストの活動紹介を受けてパネルディスカッションでは、美濃輪先生と河瀬先生をコーディネーターとして、現状の課題と今後の取り組みについて語られました。
臼井氏:「認知症の人と家族の会は設立から45年以上になり、当初から関わる人も多く、高齢化も課題となっている。介護体験を持つ人がたくさん所属しているため、その体験を社会でいかしていただけるようなシステムを作りたい」
後藤氏:「大垣市役所の高齢福祉課では本人ミーティングという新しい取り組みを始めている、参加者の輪をどのように広げていくのか、また、本人や家族の声をどのように地域づくりに活かすのかが課題であり、職員が自ら足を運んで継続的な対話を続けたい」
坂池氏:「岐阜県内の若年性認知症の方は700人から800人と推計され、何らかの支援につながっている方はまだ3分の1ほど。家族や本人同士の集まり、認知症希望大使の活動など若年性認知症の周知を進め、サポートにつなげたい」
波戸氏:「大垣警察では、関係機関と連携して、認知症の行方不明者の早期発見に努めている。見守りシールの普及、GPSの貸与、防犯カメラの設置を進め、早期発見できる体制を整えていきたい」など、パネリスト4名との意見交換がありました。
総括
本日の総括として、岐阜市民病院認知症疾患医療センター長の犬塚貴先生から「特別講演では、田口先生のライフワークでもある認知症予防について講演いただき、すぐにでも手の届く対策で、今日から実行できるヒントをいただいたこと」「パネルディスカッションでは、共生社会の実現のために、行政に頼るだけでなく、チームオレンジなど私たち地域住民のパワーを活かしていく必要があること、若年性認知症に対しては認識を深め、障がい者福祉と介護保険の谷間を埋めていく必要があること、詐欺被害者には独居が多く見守りが必要であること」などが述べられ、質の高いミーティングとなったこと、皆さまと情報を共有できたことへの感謝の言葉で総括されました。

総括 犬塚貴先生(岐阜市民病院認知症疾患医療センター長)
閉会挨拶
最後に、大垣市医師会会長の沼口諭先生から、参加者の皆さまへの感謝とともに、「私たちかかりつけ医にとって、一次予防の重要性を再認識でき、そのためにも日常の診療を軽視してはいけないこと」「当事者の思いをどのように実現していくのかが共生社会にとって重要であること」「詐欺被害と同様に、認知症とともに生きるということは、社会とともにいかに生きるかという、社会全体で取り組むべき課題である」との挨拶で閉会しました。

閉会の挨拶 沼口諭先生(大垣市医師会長)
オンデマンド配信(R7.12.26(金)~R8.3.4(水)まで)
当日の講演の様子は、YouTube「岐阜県医療福祉連携推進課 公式チャンネル」にてオンデマンド配信中です。
下記リンクボタンからご確認いただけます。