令和7年度 認知症サポート医等フォローアップ研修会(2026/1/31開催)
セミナー岐阜県医師会では、2026年1月31日(土)に「令和7年度 認知症サポート医等フォローアップ研修会」を開催。大垣病院理事長・院長の田口真源先生による「認知症の病態と一次予防」と題した講演と合わせて、「認知症の人を取りまく連携」をテーマとした意見交換を実施しました。

会場のようす
開会の挨拶
はじめに岐阜県医師会の鳥澤英紀副会長から「平成17年から認知症サポート医が導入され、岐阜県の各圏域で20年以上活動している」「認知症サポート医は、認知症診断等に関する相談・アドバイスや、認知症対応力の向上を図る研修会の企画などを推進している」「地域における一般の医師、専門医、行政とのつなぎ役としての役割が求められている」「フォローアップ研修会では、認知症サポート医の先生たちと課題などを話し合い、連携を深めていきたい」との挨拶で開会しました。

開会の挨拶 鳥澤英紀副会長
講演「認知症の病態と一次予防」
前半では「認知症の病態と一次予防(preclinical ADとAβ.時々tau)」と題して、大垣病院理事長・院長の田口真源先生にご講演いただきました。

医療法人静風会 大垣病院 理事長・院長の田口真源先生

講演のようす
認知症の病態
Aβ(アミロイドベータ)とタウの異常な蓄積がアルツハイマー型認知症を引き起こす原因とされていますが、Aβは単なる悪玉ではなく、抗菌作用を持ち、細菌やウイルスに対する防御機能を果たすことがわかっています。しかし、Aβの蓄積は、局所的な炎症反応を引き起こし、異常なタンパクを除去しようとする免疫応答を促進し、神経細胞を損傷します。このAβの蓄積がタウの異常凝集の引き金となって、タウの凝集体が細胞間を伝播して、免疫機能の不全を起こすことでAβやタウを除去する機能が損なわれ、認知症の進行につながるとされています。
Aβの蓄積はアルツハイマー型認知症に特有の現象ですが、タウの蓄積はレビー小体型認知症などその他の疾患でも顕著になっています。今後はタウをターゲットにした認知症の予防や治療が注目されるのではないかと考えています。
睡眠と認知症とAβクリアランス
睡眠時間とAβ沈着には関係があり、睡眠時間が少なすぎるとAβ沈着が多くなり、6~7時間の睡眠時間が認知症のリスクを下げるというデータがあります。
また、老年性アルツハイマー型認知症は、Aβクリアランス(分解・排泄)の低下が原因とされています。Aβの排泄には、睡眠と関連が深い「Glymphatic system」や、高血圧や糖尿病と関連が深い「IPAD pathway」などがあり、こうした排泄はAβに限らず、リン酸化タウの排泄も期待され、認知症の予防や治療につながると考えています。
認知症の一次予防
認知症の一次予防として「難聴」「うつ病」「糖尿病」との関連性に注目しています。
■難聴と認知症
難聴と認知症との関連性には、「共通病理」として、加齢性難聴には聴覚経路にAβやリン酸化タウの神経凝集が認められること、「カスケード仮説」として、聴力障害による感覚情報の減少が認知機能に影響を与えて間接的に認知機能に影響を及ぼすこと、「認知負荷仮説」として、聴力障害をカバーするために認知機能が費やされて脳機能が不十分となり、認知機能が低下することなど、3つの仮説があります。補聴器や人工内耳などで聴力障害を改善することで認知症の予防につながったという事例もあります。
■うつ病と認知症
うつ病により海馬の体積が小さくなり、抗うつ薬の投与でうつ症状が改善すると体積が戻る(可塑性)ことがわかっています。うつ病がアルツハイマー型認知症の発症に関連するとされ、再発を繰り返すことでリスクが高くなり、1回の再発ごとに14%リスクが増えるとされています。また、うつ病と糖尿病の関連性は高く、うつ病により糖尿病の発症リスクが高くなり、反対に糖尿病によりうつ病の発症リスクも高くなるというデータも報告されています。
■糖尿病と認知症
糖尿病による認知症の発症リスクは1.5~2.2倍とされ、インスリンの作用が低下する「インスリン抵抗性」では4倍前後になるというデータもあります。また、高血糖ではインスリンは糖代謝に利用されるため、Aβが蓄積するとされ、高血糖そのものが認知症の発症リスクといえます。血糖値が高めの人は正常な人と比べて認知症発症率が18%高く、糖尿病の中でも高血糖の方が認知症の発症リスクが高いというデータも報告されています。
Aβほどタウについてはわからないことが多いですが、難聴やうつ病、糖尿病、睡眠障害などの危険因子によるAβクリアランス破綻を予防することが、老年性アルツハイマー型認知症の予防につながると考えています。
意見交換「認知症の人を取りまく連携」
後半では意見交換として「認知症の人を取りまく連携」と題して、7名から取組事例について発表いただきました。

意見交換会の座長を務めた岐阜県医師会の鳥澤英紀副会長と石山俊次副会長

意見交換会のようす
取組事例1「岐阜県における高齢者・障がい者見守りネットワークの構築に向けた取組について」
岐阜県消費者安全確保地域協議会(事務局:岐阜県環境エネルギー生活部県民生活課)
岐阜県内の高齢者・障がい者の消費生活相談件数は3年連続増加し、「通信販売」「訪問販売」「訪問買取」など、日中に在宅が多い高齢者や障がい者にトラブルが発生する事例が多くなっています。孤立しがちな高齢者や障がい者を消費者トラブルから守るために、地域での見守り活動を実施することで、安心・安全な暮らしを構築していく必要があります。
そのような状況下で市町村協議会を設置する自治体は、県下42市町村のうち7市(令和6年度末)に限られ、全県下で見守りネットワークの構築を促進する母体として、令和7年8月に「岐阜県消費者安全確保地域協議会」を設置。市町村協議会の設置促進と活動支援、関係団体間の連携推進を目的として活動を続けています。今年度新たに多治見市が「多治見市生活推進協議会」を設置、さらに2市3町で前向きに検討しています。
認知症サポート医の皆さまのご協力をいただきながら、地域の見守りネットワークの推進に努めてまいりたいと思っています。
取組事例2「岐阜市の認知症支援の取り組みについて」
岐阜市役所高齢福祉課
岐阜市では、2040年に向けて高齢者が増える中で、認知症の高齢者も増えると推計されています。市内19か所の地域包括支援センターに「認知症地域支援推進員」を配置。推進員連絡会を年3回開催し、推進員活動の共有や課題を検討しています。
主な活動として「認知症の理解の推進」「認知症の相談支援」「認知症本人・介護者支援」を行っています。
認知症サポート医との連携として、令和7年9月には「認知症介護者公開セミナー」を開催。参加者153名と盛況で、認知症の理解、気付きにつながりました。令和7年10月からは「認知症サポーターステップアップ研修」を開催。認知症サポート医の先生に専門性の高い内容をお話しいただくことで、認知症サポート医の先生に相談しやすくなるという効果もありました。
また、認知症の人が住み慣れた地域で安心した生活が送れるよう地域の課題から支援体制について協議する場として「認知症地域支援体制構築推進会議」を設置。今年度は「認知症の理解不足」について推進員と意見交換を実施しています。
取組事例3「わが町の認知症施策~無料出張相談in輪之内~」
輪之内町役場福祉介護課
輪之内町では、認知症に関する様々な相談・悩みについて認知症地域推進員が無料出張相談を実施しています。相談を始めたのは、「認知症」が要介護認定を受ける原因疾患になっていると気づいたことがきっかけです。「もう少し早く相談があれば良かったのに」と感じるケースが多く、気軽に相談できる仕組みが必要だと考えました。
「認知症の関わり方を知りたい」「介護が大変で自分の話を聞いてほしい」「何をしたら良いのかわからない」、そんな不安な気持ちの支えになるために始めました。出張相談だけでなく来庁相談もあり、少しずつ良い変化が生まれています。
認知症に関わるすべての人が、地域とつながりながら生活を続けるという、当たり前を継続できるように、認知症になってもその方の暮らしを整えるための起点となる場所であり、支援者でありたいと考えています。
取組事例4「認知症疾患医療センターにおける活動」
岐阜病院院長 石井俊也 院長
「認知症疾患医療センター」には基幹型I、基幹型II、地域型、連携型があり、岐阜病院は地域型です。認知症の鑑別診断及び専門医療相談などの「専門医療機能」、地域への認知症に関する情報発信、普及啓発などの「地域連携拠点機能」、認知症の人や家族に対する相談支援などの「診断後等支援機能」、アルツハイマー病の抗アミロイドβ抗体薬による治療などを担っています。
令和7年度には、各種研修会への講師派遣をはじめ、健康フェアなど他事業への協力・参加しました。令和8年1月には「認知症カフェフェスティバル」を開催し、市民講座などを実施。また、令和7年11月には岐阜市民病院や黒野病院と共同開催として、プラネタリウムや映画上映会なども実施しました。
当院はBPSD(認知症の行動・心理症状)や身体合併症で入院される方が多いため、入院者の退院先は、在宅に帰られる方が12%(令和6年10月~令和7年9月)と少なく、グループホームをはじめ何らかの施設に移っています。
取組事例5「若年性認知症支援センターの取組」
大垣病院精神福祉士・岐阜県若年性認知症支援コーディネーター 坂池良太氏
岐阜県の「若年性認知症支援センター」は大垣病院内にあり、面談・電話などによる相談業務、若年性認知症の普及啓発、若年性認知症カフェの開催をはじめとするネットワーク構築などに取り組んでいます。
年間50件ほどの相談があり、本人や家族をはじめ、企業からの相談も増えています。
若年性認知症は進行性の病気であり、現役世代の発症となります。就労支援として、常に退職後のことを考えながら、診断後に使える経済的支援、生活支援は様々ありますので、就労中から情報提供していくことが重要だと感じています。
就労を継続できる人ばかりではありませんが、仕事の整理や会社のバックアップで就労を継続できる事例もあります。症状の進行とともに社会参加の場所も変化するため、働けなくなっても、自分の居場所があり、社会とつながりを持ち続けられることが大切になります。地域で若年性認知症の方のご相談があった場合は、一緒に支援に携わっていきたいと思っています。
取組事例6「関市認知症初期集中支援チームの活動実績」
関市認知症初期集中支援チーム ウェルネス高井クリニック 高井昭裕 先生
「関市認知症初期集中支援チーム」は平成28年度から活動を開始しました。
チーム員が医療・介護サービスにつなげるため6ヶ月以内の集中支援を実施する「初期集中支援」や、介護支援専門員等と同行訪問し、医療・介護サービスなどの対応方法を助言する「訪問・助言」などを実施することで、当初は医療につながっていなかった方が医療につながったり、介護保険の利用がなかった方が利用できるようになったり、支援の終了後も在宅生活が継続したりと、良い結果が報告されています。今後も、認知症初期集中支援チームが介入することで、より多くの方の支援に対応していきたいと考えています。
取組事例7「認知症の人と家族の会の活動と認知症のご本人とご家族の思いについて」
認知症の人と家族の会 岐阜県支部 代表世話人 高木初雄氏
「認知症の人と家族の会」は、1980年に結成され、全国47都道府県に支部があります。認知症の本人と家族が中心となり、介護の社会化と制度充実、社会の理解促進を目指して活動しています。
全国で2番目に結成された岐阜県支部は今年で45年目を迎えました。県下5圏域に分かれ、各自治体と連携しながら地域に根差した活動をしています。岐阜県支部では会報「れんげ」として、つどいなどの様子を毎月会員様にお届けしています。ご本人とご家族のリフレッシュを兼ねての旅行や、講演会、研修会を実施。また、24年度からは「家族支援プログラム」として、岐阜県医師会、認知症疾患医療センター、作業療法士会などのご協力を得て、年6回、半年をかけて研修会を実施しています。
家族の会が考える認知症にやさしい街とは「仲間がいる街、つながる街」。認知症をみんなが正しく理解している、困っている人にさりげなく手をさしのべる、認知症を自分事として考えている、認知症を特別扱いしない、そんな街を目指しています。
ゆっくり相談に応じる時間を取るのが難しいときは「認知症の人と家族の会」があるとご紹介ください。
最後に
発表いただいた皆さまへの感謝の言葉とともに、「入院後の退院先として在宅専門クリニックへ転院されるケースが増え、かかりつけ医と患者様とが長年築いてきた関係や、地域とのつながりが絶たれてしまう懸念があり、全国的にも課題となっていること」。「退院後も、かかりつけ医が訪問診療や往診に対応できる体制づくりが求められていること」。「岐阜県医師会が作成したエンディングノート『これからノート』を活用してACP(人生会議)を行うなど、本人の価値観や想いを大切にした医療・介護につなげていただきたい」との言葉で閉会しました。