令和5年度 岐阜県医師会県民健康セミナー・岐阜県認知症理解普及講座
「認知症の方が暮らしやすい社会を目指して」(2023/12/10開催)
セミナー
岐阜県医師会と岐阜県では、地域における認知症理解の普及と認知症のご本人やその家族への支援体制の構築に向けた取り組みを推進しています。2023年12月10日(日)に美濃市にある「みの観光ホテル」にて、午前の部として認知症カフェ、午後の部として講演会とパネルディスカッションを実施しました。
会場となった「みの観光ホテル」
午前の部
認知症カフェ「オレンジカフェ長良川」は、岐阜県内5つの圏域で順に開催されています。中濃圏域では5年ぶりとなり、武儀医師会 在宅医療介護相談(CBICS)センターの協力により美濃市にて開催されました。
オレンジ色のスタッフジャケットには関市のマスコットキャラクター「はもみん」の姿も
2023年6月「共生社会の実現を推進するための認知症基本法(通称:認知症基本法)」の成立を受け、基本的施策である「相談体制の整備」の具体的な施策の1つとして期待される認知症カフェ。地域の専門職とつながるきっかけや情報交換の場として、また、認知症のご本人やご家族にとってお互いの気持ちを共有する心の拠り所となっています。
今回のオレンジカフェ長良川では、認知症のご本人やご家族をはじめ、介護経験者や介護施設の職員、介護を学ぶ学生、薬局の薬剤師、介護予防教室に通う一般の方など、様々な立場の参加者が集まり、それぞれの想いを語らう機会となりました。
認知症のご本人とご家族、介護経験者、専門職などが集まり開催された認知症カフェ「オレンジカフェ長良川」の様子
サポート役として、関市や美濃市で活躍する認知症看護認定看護師や認知症初期集中支援チーム、地域包括支援センターの職員、認知症の人と家族の会のメンバーなど、12名のスタッフが参加。岐阜県医師会常務理事の近藤先生、武儀医師会会長の平岡先生から開催の挨拶の後、5つのグループに分かれて1時間ほど歓談し、各グループのファシリテーターやスタッフが歓談の内容や感想について発表を行いました。
武儀医師会会長 平岡先生から開催のご挨拶をいただきました
スタッフからは「介護のことは口にしづらいけれど、本音を伝え続けることが大切」「認知症の人を支えるために自分にできることを考え、行動することが大切」「気持ちを吐露して介護者さんが落ち着けば、認知症のご本人にとっても良い環境になる」など、参加者からは「認知症の人を街で見かけたら、声をかけてもらえるだけで介護者は気持ちが楽になる」「認知症カフェに参加して自分を客観的に見られるようになった」「経験を語ってくれる人の存在は大事、オレンジカフェは強い味方」「支援や制度などの答えも必要だけれど、まずは辛さを共感してほしい」などの声が聞かれました。
現在、関市18ヶ所、美濃市2ヶ所の認知症カフェが定期的に開催されています。公共施設や福祉施設の他、寺院やカフェ、病院などでも実施され、中濃厚生病院では地域とつながり病院に来院しやすいきっかけづくりになればと認知症カフェを2ヶ月に1度実施しています。認知症カフェごとに特徴があるので、通いやすいところや自分に合ったカフェを見つけて、継続的に通うことが大切であるとのアドバイスがありました。
午後の部
2025年には認知症の方が700万人になるという数値が示されています。いかに認知症の方が暮らしやすい社会を実現するかというのは重要な課題です。「認知症フレンドリー社会」というのは優しい、親切ではなく、使い勝手の良い、適応しやすいという意味のフレンドリー。インターフェイスや公共デザインをわかりやすいものに変更するなど、認知症に対応した社会へのアップグレードが必要となっています。
講演会の会場となった「みの観光ホテル 飛天の間」には多くの聴衆が集まり熱心に耳を傾けました
基調講演
基調講演では「認知症の方の治療と生活支援」と題して、京都大学大学院教授の木下先生にご講演いただきました。認知症とは病態であり、誰もがかかりうるものであり、アルツハイマー病のごく初期には新規治療(新薬レカネマブなどを用いた抗アミロイド抗体療法)が有効である可能性があり、これまで以上に早期発見が重要となっていること。また、早期発見のポイントは「新しいことが覚えられなくなる」変化に気づくことであり、症状改善薬を適切に選択し、認知症予防に役立つ生活習慣の実施や、認知機能の低下をカバーする環境調整とシームレスな支援が必要であることなどについて語られました。
パネルディスカッションでは、パネリスト4名による活動紹介をもとに、コーディネーターとして岐阜県認知症サポート医である山本先生(岐阜県医師会常任理事)と石山先生(岐阜市医師会副会長)を交えた意見交換を実施。コメンテーターとして木下先生からご講評いただき、最後に総括として座長の犬塚先生(岐阜市民病院認知症疾患医療センター長/岐阜大学名誉教授)にご挨拶いただきました。
京都大学大学院教授の木下彩栄先生による基調講演が行われました
パネリスト活動紹介1
地域の相談窓口を担う自治体の視点から
可児市高齢福祉課の柴田氏は「認知症の方の生活障がいの相談と対応」と題して、可児市の認知症施策の紹介とともに、専門職や近隣住民をはじめ、新聞配達やコンビニなど地域のインフラを通した見守りにより、住み慣れた地域で暮らしを続けられる方がいることや、地域包括支援センターの存在を知り、早期に相談窓口を活用することの大切さなどについて語られました。
パネリスト4名による活動紹介をもとにパネルディスカッションを開催しました
パネリスト活動紹介2
心身ともに生活を支える介護士を育成する視点から
中部学院大学短期大学部の桝井氏は「認知症の方の理解を深める取り組み」と題して、社会福祉学科介護福祉コースのゼミ活動において、仙台市発の認知症当事者の悩みに認知症当事者が応える「おれんじドア」を、美濃市に広げる「おれんじドアみの」の支援をはじめ、地域での活動を通して学ぶ機会を設けていること、根拠に基づいた支援のために考える機会や他者と意見交換する機会を大切にしていることなどについて語られました。
パネリスト活動紹介3
買い物という地域のインフラを守る視点から
イオンリテール株式会社東海カンパニーの山田氏は「買い物の現場での認知症支援」と題して、すべてのお客さまに心地よい店舗づくりを進めていること、2007年から認知症サポーターキャラバンに参画し、これまでイオングループ全体で認知症サポーター82,904人(2023年2月末現在)を育成したこと、接客時における認知症と思われるお客さまへの気配り心配りのできる適切な対応などについて語られました。
パネリスト活動紹介4
生活を見守る作業療法士の視点から
認知症専門の老人保健施設「サントピアみのかも」で作業療法士として活躍する服部氏は「認知症の方への支援の現場から」と題して、認知症当事者100名のインタビューをもとに制作された14のストーリーからなる『認知症世界の歩き方』のワークショップを例に、本人の視点から認知症を学び、その気づきをもとにした施設内の環境整備など、認知症の方とともに考えることで可能となる誰もが生きやすい工夫について語られました。
パネリスト4名(左)、コーディネーター2名(右)、コメンテーター木下先生(中央)によるパネルディスカッションの様子
木下先生からは講評として、初期集中支援チームに相談に行く時にはすでに初期ではない場合が多く、少しでも早く支援チームに相談してほしい。認知症予防には若い頃からの生活習慣が大切であり、学生には自分の脳の健康を保ってほしい。地域のインフラに関しては認知症の方に対応したトランジションを検討してほしい。本人の視点から認知症を考えることは難しく、生活を見守るスペシャリストである作業療法士の活躍に期待しているなどのご意見をいただきました。
犬塚先生から最後に本日の総括として、有益な時間となったことに対する参加者への謝礼とともに、小学生も含めてダイバーシティの問題に認知症を位置付けて理解を深めていきたい。認知症カフェのような相談できる場が地域に常に存在するようにしたい。認知症への取り組みが多くの企業文化として定着してほしい。日常の人間関係でもすれ違いはあるもので、認知症の方とのすれ違いをどのように自覚し解消するかが大切であるなどのご意見をいただきました。