令和5年度 岐阜県医師会 在宅医療人材育成事業 在宅医療スキルアップ研修会
「ICTツールを活用した診診連携・多職種連携」(2024/2/11開催)
医師研修会
在宅医療における「ICTツールを活用した診診連携・多職種連携」をテーマに、2024年2月11日(日)に岐阜県医師会館にて在宅医療スキルアップ研修会を実施。会場20名、WEB配信70名が参加し、第1部では「武儀医師会におけるメディカルケアステーション(MCS)の活用について」、第2部では「長崎の医療連携 〜医療連携ICTネットワーク“あじさいネット”の活用方法と長崎在宅Dr.ネットの活動〜」について講演いただきました。
会場となった岐阜県医師会館6階大会議室
開会の挨拶
はじめに岐阜県医師会の伊在井みどり会長から「在宅医療において診療や介護の情報をどのように取り込み、活かしていくかは重要なテーマとなっている」「岐阜県医師会では、県内の情報提供病院の診療情報を閲覧できる『ぎふ清流ネット』のしくみを活用しながら、どのように病診・診診連携や多職種連携につなげていくのか研修会を通して学び、今後の岐阜県の医療に役立てたい」との挨拶で開会しました。
岐阜県医師会 伊在井みどり会長
第1部「武儀医師会におけるメディカルケアステーション(MCS)の活用について」
第1部では、中濃厚生病院で皮膚・排泄ケア認定看護師(WOCN)として活躍する矢野綾那看護師から「武儀医師会におけるメディカルケアステーション(MCS)の活用について」と題して、主に認定看護師の活動におけるMCSの活用について講演いただきました。
第1部講演の様子
「メディカルケアステーション(MCS)」とは地域包括ケア・多職種連携のための非公開型医療連携コミュニケーションツールです。武儀医師会では2014年に在宅医療を実施する医療機関と訪問看護ステーションなどにタブレット端末50台を配布し、2015年にMCSを導入しました。現在では総合病院や診療所など90の施設と、医師をはじめ看護師、ケアマネージャーなど190名の専門職が活用しています。
中濃厚生病院 皮膚・排泄ケア認定看護師(WOCN) 矢野綾那氏
矢野氏は「皮膚・排泄ケア認定看護師(WOCN)」として、退院後の訪問指導や同行訪問、処置サマリーの作成などを実施。在宅医療における認定看護師の必要性をアピールするため、開業医や看護師との交流会、出前講座、挨拶まわりなども行っています。こうした地域との連携を通してMCSの存在を知ったとのこと。
「皮膚・排泄ケアの分野では、D3以上の褥瘡や、人工肛門の合併症を有する患者さんなどに対して、訪問看護ステーションのスタッフと同行訪問し、現場での実践・指導や相談を受けるケースがあります。専門性の高い看護師として、局所の状態から患者さんの背景や暮らしを知り、傷が訴えていることを読み取りたいと思っています」と矢野氏。認定看護師は、その専門性に基づいて基本に沿ったケアができること、ヒト・モノ・カネの調整ができること、治癒や改善の予測ができることなどの強みがあります。
認定看護師として在宅医療の現場で活動するためには、かかりつけ医をはじめ、患者さんを支えるチームで継続した情報共有の必要性があります。しかし、同行訪問で行ったことを多職種にタイムラグなく伝えるにはどうすれば良いか、同行訪問前に創部写真を確認したいがメールやファックスは利用できない、ケアの実践の統一や共有はどうすれば良いかなどの課題がありますが、MCSの導入により一挙に解決できます。
実際の同行訪問後には、創部の写真、具体的な局所ケア内容、体圧分散用具や除圧ケアの介入の評価などの情報を発信。その後もMCSを通して、患者さんや家族の様子や創傷ケア介入内容などを継続してリアルタイムに収集し、「関連施設とのスムーズな連携」「実践・指導の内容の伝達・共有」「適切な個人情報の取り扱い」などMCS活用後に大きく改善できました。
「MCSを活用することで、患者さんや家族の信頼を得られ、遠方の家族を安心させることもできます。また、退院後の病院からも在宅の様子がわかり視野を広げることができます」と矢野氏。参加者をいかに拡大していくか、電子カルテや他のICTツールといかに連携するかなどの課題もあるが、在宅医療にMCSを活用して、認定看護師 としてより良いケアを提供していきたいと講演を締めくくりました。
第2部「長崎の医療連携 〜医療連携ICTネットワーク“あじさいネット”の活用方法と長崎在宅Dr.ネットの活動〜」
第2部では、長崎県医師会理事、長崎在宅Dr.ネット理事として地域医療の現場で活躍する奥平外科医院の奥平定之院長から「長崎の医療連携 〜医療連携ICTネットワーク“あじさいネット”の活用方法と長崎在宅Dr.ネットの活動〜」と題して、ICTツールを活用した長崎の地域医療連携について講演いただきました。
第2部講演の様子
あじさいネットの活用方法について
「あじさいネット」は2004年に長崎県大村市から運用が始まり、2023年12月現在、会員数は1,985名、情報提供病院は37施設、情報閲覧施設は359施設、全登録患者数は179,702名と利用者の増加とともに離島地域も含め県内全域に広がっています。
奥平外科医院院長 奥平定之氏
あじさいネットとは、拠点病院などが提供するカルテや検査結果などの診療情報を、患者さんの同意のもとインターネットを通じて診療所やクリニックなどの医師や看護師、調剤薬局の薬剤師などが閲覧できるシステムです。開業医にとって日常診療になくてはならないツールとなっています。
「例えば、初診で来院した患者さんで、特に高齢の場合は自分の病気が何かよく説明できないこともあると思いますが、あじさいネットで『カルテ共有』すれば、医師記録や検査結果、処方内容などの情報を確認できます。拠点病院から患者さんを紹介された場合も、通常であれば診療情報提供書と画像データのみですが、あじさいネットを活用することで診療の経緯が確認でき、適切な治療を継続できます。また、拠点病院の医師も退院後の経過がわかり、今後の医療に役立てられます」と奥平氏。
2010年から「多職種連携」の運用を開始。多職種連携同意書をもとに、患者カレンダーに在宅主治医や訪問看護師、訪問薬剤師、ケアマネージャーなどチームのメンバーが、共有すべき情報を書き込むと通知メールが届き、全員が閲覧できます。医師の治療方針や患者説明内容まで病院の電子カルテのように書き込むことができるので、1つのシステムで時系列に情報を確認でき、カンファレンスの時間を短縮できる、異なる事業者間で情報共有が簡単にできるなどのメリットがあります。多職種連携の開始からタブレットが使えるようになって、その場で写真を撮って共有したり、出張先でも情報を確認できるようになりました。
2016年からは「検査結果共有」もできるようになり、多職種連携と併せて活用することで、これまでのように病院のデータを見るだけでなく、情報を双方向に発信しながら、在宅医療の情報共有ができるようになりました。
「入退院を繰り返したり、他の病院を受診したりしても、データセンターに記録が残り、患者さんの生涯カルテを作ることができます。万一、災害が発生した場合もデータセンターに保存されているため紛失することもありません」と奥平氏。現在は3,000例のカルテ共有、500例の多職種連携の実績があり、患者さんにもあじさいネットの存在が浸透しています。今後は国が推進する「全国医療情報プラットフォーム」との連携をどうするかという課題もあるが、あじさいネットを医療DXの知見として活用できるのではないかと、あじさいネットの活用方法について解説いただきました。
長崎在宅Dr.ネットの活動について
「長崎在宅Dr.ネットとは、長崎の在宅診療もする開業医のネットワークです。在宅専門の特別な医療機関ではなく、通常診療を行いながら『在宅診療もする』というのが特徴で、医師の都合で自宅に戻れない患者さんを出したくないという理由のもと、あじさいネットより1年早く2003年から始まりました」と奥平氏。
長崎在宅Dr.ネットでは、自宅や介護施設で療養したいという患者さんの在宅主治医・副主治医の紹介と、在宅診療の支援を行っています。参加医師の条件は、24時間365日対応可能な意気込みがあり、メールによる連携が可能なこと。2023年12月現在、会員数は211名となり、その内訳は訪問診療を行う連携医98名、皮膚科や眼科など専門性を持つ協力医57名、助言や病院連携に関わる病院・施設医師56名で構成されています。
長崎在宅Dr.ネット事務局のコーディネーターがメーリングリストを利用して、主治医と副主治医を募集し、自ら手を上げた人がそれぞれを担当することになりますが、主治医と副主治医が決まるまで、ほとんど1日ないし2日以内となっています。また、診療以外の活動としては、学術講演会や症例検討会、研修会、学会発表なども行っています。
長崎在宅Dr.ネットが注目される点の1つは、在宅主治医をサポートする在宅副主治医の存在です。主治医が不在のときに代行が可能なため、主治医の負担軽減につながっています。昨年のアンケートでは「地域密着の医師同士のメーリングリストを活用して情報を迅速に得ることができる」「開業していると他の医師と話すことが少ないので交流ができる」「多職種と勉強会を開くことができ情報共有がしやすい」などの声も聞かれました。
「来年の2025年6月14日(土)・15日(日)には出島メッセ長崎で『在宅医療の未来を語ろう』と題して第7回日本在宅医療連合学会大会を計画しておりますのでご興味のある方はぜひご参加ください」と告知とともに講演を締めくくりました。
各講演後には質疑応答も行われました