2024年03月19日

令和5年度 岐阜県在宅医療人材育成事業 在宅医療・介護連携推進コーディネーターフォローアップ研修会
「あなたの多職種連携研修の一助をめざして」(2024/2/18開催)

医師研修会

「あなたの多職種連携研修の一助をめざして」をテーマに、2024年2月18日(日)岐阜県医師会館にて在宅医療・介護連携推進コーディネーターフォローアップ研修会を実施。郡上市にある県北西部地域医療センター国保白鳥病院の後藤忠雄病院長を講師として、人生会議を例にした多職種連携の研修企画・運営方法に関するミニレクチャーとロールプレイが行われました。

チームごとにテーブルに分かれ着席する会場の様子

開会の挨拶

はじめに岐阜県医師会の伊在井みどり会長から「在宅医療・介護連携において皆さんの役割が非常に大きくなっている」「研修会を通して多職種連携研修について学ぶとともに、在宅医療・介護連携を推進する立場として、他の多職種の考えを聞き、1人で2人分、3人分の役割を果たせるようになってほしい。ただし1人で抱え込まず専門職に頼れるよう多職種連携を活用してほしい」との挨拶で開会しました。

開会の挨拶をする岐阜県医師会の伊在井みどり会長

多職種連携の研修企画方法を学ぶ「人生会議ってどんな?」

各市町村の在宅医療・介護連携推進コーディネーター、行政職員など28名が、7名ずつAからDまで4つのチームに分かれて参加しました。会場内を隈なく歩きながら、ヨーイスタート!ハイ終わり!の掛け声やカウントダウン、思わずクスッと笑ってしまうギャグ。後藤先生の軽妙な司会に参加者の緊張はほぐれ、楽しい雰囲気の中で研修が進みました。

会場内を歩きながら司会をする後藤先生

イントロダクション

イントロダクションでは、今日の研修会が終わるまでに「研修会のコツをひとつつかむこと」「こんな研修会っていいなって思えること」という学習目標と時間割を提示。人生会議を例にした研修会を体験する「参加者脳」と、多職種連携の研修会を企画・運営する「運営者脳」の2つの脳を切り替えながら参加するというルールが伝えられました。

人生会議に関する研修会

イントロダクションに続いて、人生会議に関する研修会がスタート。「人生会議の進め方を理解すること」「人生会議においてコミュニケーションと相互尊重精神が重要であると位置付けること」という学習目標が伝えられ、ミニレクチャーを実施。「人生会議とは何か」「いつ人生会議をするか」というミニレクチャーの後、各チームで1番若い人(とチームで判断された人で具体的に年齢は聞かない)が司会者となって、「名前」「職種」「勤務先」「ニックネーム」の順に自己紹介しました。

自己紹介の様子

後藤先生によるミニレクチャー①
「人生会議とは」

人生会議とはACP(アドバンス・ケア・プランニング)の愛称です。自らが望む人生の最終段階における医療やケアについて前もって考え、医療・ケアチームなどと繰り返し話し合い、共有する取り組みのこと。「人生の最終段階」という言葉がひとり歩きしがちですが、最終段階では意思決定が難しい人が7割くらいとされ、その前に入退院を繰り返すなど健康状態が不安定になってケアサイクルが回り始めた頃が最適とされています。

「経管栄養をするかしないか」「蘇生するかしないか」を決めるAD(事前指示書)ではなく、ACP(人生会議)はもっと広い意味で、「どう生きたいか(人生をよりよく生きる)」「どう逝きたいか(人生をよりよく終える)」という2つの側面があって、その人その人の価値観を聞いていくことが大切となっています。

【運営者脳で聞く!研修会運営のコツ】

開始までは参加者の緊張感をほぐすことが大切。少し早めに会場に入って参加者の様子を把握して、いきなりロールプレイやグループワークではなく、学習目標と時間割の提示、その日のテーマに関する説明などを行いましょう。自分を含めて自己紹介をすることも大切です。ニックネームを入れると場が少し和みます。「発言しましょう」「積極的に参加しましょう」など、その日のルールの確認も必要です。また、1番若い人が仕切ることで、発言の機会が多くなり、年配者に臆することなく若い人も積極的にロールプレイやグループワークで発言できます。

アイスブレイク

参加者の緊張感をほぐすためにアイスブレイクとして「輪っか作り」をチーム対抗戦で実施。のり2つ、はさみ2つ、新聞紙を使って輪っかを作り、連続してつながっている個数を競うというもの。2回戦の結果、Cチームが優勝。どのチームも2回戦目で輪っかの数がかなり増える結果となりました。

役割分担をしながらチームで協力するアイスブレイクの様子

「在宅医療・介護連携も、こうやってみんなで輪っかを作っているんですよね。絶対にうまくいくことばかりではない、一生懸命やっているのに期待に応えられないこともあります。しかし、今回のように1回目を反省して修正し、2回目にチームで頑張ると輪っかの数が増えるんです。弱いところをサポートして、チームで関わる意味を反映しています」と後藤先生。繰り返し実施することで対応が改善され、チームの結束も強くなり、最善の方法が見えてくることが示されました。

笑い声と歓声の中、連続してつながった輪っかを数える

【運営者脳で聞く!研修会運営のコツ】

緊張感をほぐすために、つねに何らかのアイスブレイクは必要です。初参加のメンバーが多い場合は時間をかけて実施しましょう。多職種連携の研修会では今回のようなチームビルディングに役立つアイスブレイクが最適です。チームで関わる意味が伝えられます。今回の人生会議なら「人生で最後に食べたいものは?」「どんな病気で死にたい?」など、その日のテーマに合った話題を自己紹介に盛り込むのもおすすめです。

まずはやってみよう人生会議(ロールプレイ①)

各テーブルに配布されたAとBの2つのシナリオからどちらかを選択。封筒に入った共通シナリオと配役の特異シナリオを読んで、患者本人、家族や医療職や介護職など、それぞれの役になり切って15分間のロールプレイを実施しました。シナリオにないことはアドリブで、岐阜弁もあり。本人役と家族役が立ち上がり、「どうぞおかけください」の言葉をきっかけに、まずは手探りの人生会議が始まりました。

用意されたシナリオと配役の資料

まず人生会議の内容を役のまま記録用紙に記入し、本来の自分に戻って大変だと思ったこと、困ったと思ったことなどを記入し、チーム内で共有後、全体で共有。「事前に家族で必要なことを話しておくことが必要」「今後の予後の見通しなどをあらかじめ説明した上で会議を持った方が良い」「専門職の押し付けにならないように、相手の気持ちを聞くことが大事」などの声がありました。

それぞれの役になり切って人生会議のロールプレイを実施

後藤先生によるミニレクチャー②
「人生会議のプロセス一例」

人生会議は10のステップにまとめられます。人生会議の目的の伝達と承認を得る「導入」から「理解の確認」「見通しの共有」「価値観の探索」「まとめとアドバイス」までの5つのステップは「よりよく生きるために」、2回目の「見通しの共有」「価値観の探索」となるステップ6と7は「よりよく終えるために」、ステップ8から「締めくくり」「記録」「共有」までの3つのステップは、ステップ6と7を行わない場合も「よりよく生きるために」のまとめとして実施します。ステップ6と7は無理強いせずに状況に応じて実施することが重要です。
簡単に解説すると「こういう目的で集まってもらいました」「今の自分についてどう思っていますか」「ご家族はどうですか」「専門職はこう判断しています」「これからの目標について聞かせてください」「どんな人生を送りたいと考えていますか」「何か楽しみなことはありますか」「逆に不安なことはありますか」「私たちがサポートしますので、こういうところに気を付けていきましょう」と、ここまでがよりよく生きるために。

ここからはよりよく終えるために「お時間があったら万一悪くなった時のことをお話ししてもいいですか?」と聞いて承認が取れたら、「最終的な段階について日頃から思っていることはありますか?」など価値観を探索していきます。人生会議は、半構造的なものでステップ通りではなく行ったり来たりしながら、繰り返し話し合っていくものですが、1つの人生会議の流れを知ることで全体をイメージできるようになります。

ステップに沿ってやってみよう人生会議(ロールプレイ②)

ステップを習ったところで、ステップに沿って2回目の人生会議を行いました。シナリオも配役も1回目と同じ。再度、シナリオを読み込んで15分間の人生会議がスタート。終了後、1回目と同じように、人生会議の内容を役のまま記録用紙に記入し、本来の自分に戻って大変なこと、困ったことを記入し、チームで共有した後、全体で共有しました。
「1回目より2回目は本人の抱えている問題を把握できているため、ステップに沿ってより踏み込んだ話し合いができる」「ステップがわかっていても最初から踏み込んだ話し合いは難しい」「繰り返し話し合うことの大切さがわかった」などの声が聞かれました。

【運営者脳で聞く!研修会運営のコツ】

今回はロールプレイを行いましたが、ワールドカフェやグループワークなど取り組みはいろいろあります。講演会であっても感想を隣同士で話し合うなどインタラクティブな場面を設定しましょう。目的に沿った研修内容を考えるために、チームを作ってチームで考えるのも1つの方法です。郡上市では多職種連携の世話人会というものを作って28人のいろんな職種のメンバーが集まって研修の企画・運営を実施しています。ぜひ仲間を作って取り組んでみてください。

まとめ

ACPに関しては「会議をしないといけない」「看取る場所や医療行為などを選択することである」「医師が行うものである」「死期が迫ったら行うものである」など、いろんな誤解があります。ACPとは「前もって(Advance)」「最後に向けて大切なことを(Care)」「話し合って実現するプロセス(Planning)」です。対話を通して本人の価値観や意向、人生の目標などを共有・理解した上で、意思決定のために協働することが求められています。

「日常生活で想いのかけらを集めて時系列にまとめ、価値観や意向を明らかにすることもできます。支援過程で得た人生観の情報を多職種で共有できるよう記録を引き継ぐことも大切。意思表示は点で、本人の想いは連続性ですから、そのことを間違えないように」と後藤先生から人生会議を例とした研修会のまとめとなる言葉がありました。

【運営者脳で聞く!研修会運営のコツ】

研修会の最後には、今日どんな学びがあったのか研修会で伝えたかったことをまとめておきましょう。チームの健闘を讃えて握手するというのもおすすめです。事後アンケートも重要ですが、あまり悪い意見に引っ張られないように、夢をもって取り組みましょう。

閉会の挨拶

最後に岐阜県医師会、鳥澤英紀副会長から「日頃から自分自身や家族のことをプランニングしておくと、対象となった患者さんのプランニングやご家族のことも考えやすいのではないか」「岐阜県医師会ではエンディングノートに取り組んでいますが、1回の会議だけでは患者さんやご家族の想いは十分に表現できないため、つねに追記や修正が可能な形で行うことができればいい」などの挨拶があり、講師である後藤先生への感謝の言葉とともに閉会しました。

閉会の挨拶をする岐阜県医師会の鳥澤英紀副会長

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