2025年02月27日

令和6年度 岐阜県医師会県民健康セミナー・岐阜県認知症理解普及講座
「認知症と共に生きる社会を目指して」(2024/12/15開催)

セミナー

岐阜県医師会と岐阜県では、地域における認知症理解の普及と認知症高齢者やその家族への支援体制の構築に向けた取り組みを推進しています。2024年12月15日(日)に高山市にある「ひだホテルプラザ」にて、午前の部として認知症カフェ、午後の部として講演会とパネルディスカッションを実施しました。

会場となった「ひだホテルプラザ」

午前の部

認知症カフェとは、認知症の方やその家族、認知症に興味のある方が、悩みを相談するなど情報交換する場です。高山市・下呂市・飛騨市・白川村をエリアとする飛騨地区を対象とした認知症カフェ「オレンジカフェ乗鞍」を開催しました。

今回の「オレンジカフェ乗鞍」では、認知症の人と家族の会のメンバー、下呂市・飛騨市・高山市の地域包括支援センター、高山市社会福祉協議会、須田病院認知症疾患医療センターの方々のご協力のもと企画・運営し、岐阜県医師会山本昌督常務理事の挨拶で開会しました。

岐阜県医師会の山本昌督常務理事からの挨拶で開会

最初に、心と体をほぐすため「棒体操」を体験。ラップの芯を使って手作りされた棒には鈴が付けられ、動かすたびに鈴の音色が軽やかに鳴り、椅子に座ったまま楽しく運動ができました。「二重課題」と呼ばれ、足踏みをしながら手拍子をしたり、太ももや頭を叩いたりするという認知症予防のためのコグニサイズも取り入れられ、成功すると笑いや拍手が起こるなど賑やかに盛り上がりました。

介護老人保健施設アルカディアの指導のもと行われた棒体操の様子

その後、参加者が各テーブルに分かれて軽食を楽しみながら1時間ほど歓談しました。ご家族からは「父親がデイサービスに行きたがらない」「デイサービスの意味が理解できていない」などの声が聞かれました。また、スタッフからは「デイサービスという言葉に抵抗があるかもしれない。趣味を楽しむ場所、運動をする場所、リハビリをする場所など、やりたいことに結びつけて参加しやすい環境を整えることが大切」「認知症で覚えていなくても楽しかったという“いい感情”が残ることが心の安定につながる」「気軽に参加できる認知症カフェなどを通して、困る前に早めに相談してほしい」などの声が聞かれました。

オレンジカフェ乗鞍の様子

午後の部

岐阜県医師会の鳥澤英紀副会長の挨拶に続き、神戸大学大学院保健学研究科教授の古和久朋先生による「アルツハイマー病新薬登場で変わること・変わらぬこと」と題した基調講演と、「認知症と共に生きるフレンドリー社会を目指して」と題したパネルディスカッションを実施しました。

講演会の会場となった「ひだホテルプラザ 祭の間」には雪の予報にも関わらず多くの聴衆が集まりました

基調講演

基調講演では、「アルツハイマー病新薬登場で変わること・変わらぬこと」と題して、古和久朋先生にご講演いただきました。

2022年からの調査によって、当初の推計より認知症の人の数が大幅に下方修正されたこと。同時に、認知症の前段階である軽度認知障害(MCI)と診断される人が増加し、アルツハイマー病新薬である「レカネマブ」と「ドナネマブ」の2種類が医療保険の対象となり、新薬での治療のためにMCIを含めて早期発見が重要となっている。

こうした前提のもと、新薬登場によって変わることとして、早期の診断により認知機能の悪化を抑制し、その人らしく過ごせる時間を延長させることが可能となっている。
また、新薬登場によって変わらないこととしては、多くの認知症の人は治療対象とはならず、引き続き、認知症に関する正しい知識と正しい理解を深める必要があること。2024年1月の認知症基本法の施行に伴い、想像力を発揮して認知症の人の困り事を考えることや、認知症を自分ごととして捉えることの重要性などについて語られました。

神戸大学大学院教授の古和久朋先生による基調講演が行われました

パネルディスカッション

パネルディスカッションでは、パネリスト5名による活動紹介をもとに、コーディネーターとして岐阜県認知症サポート医である山本先生(岐阜県医師会常務理事)と垣内先生(Mこころクリニック院長)を交えた意見交換を行いました。

パネリスト5名による活動紹介をもとにパネルディスカッションを開催しました

パネリスト活動紹介1

「街のみんなとkaigoカフェで創造する認知症フレンドリーなまちづくり」

特定医療法人生仁会・介護老人保健施設アルカディア係長の山越博正氏(理学療法士)より、三枝の郷まちづくり協議会との出会いをはじめ、多くの出会いにより実現した「さいぐさカフェ」の取り組みについて紹介。住人それぞれがそれぞれの立場で認知症について「自分ごと」として考えることで対応が変わる、人と人が出会いや繋がることでコラボレーションが生まれ、認知症の人が安心して暮らせる、そして誰もが安心して暮らせる街になると語られました。

パネリスト活動紹介2

「認知症フレンドリー社会の実現に向けた高山市の取組みについて」

高山市市民福祉部長の石腰洋平氏より、高山市の概要と認知症の現況、認知症の予防や認知症の啓発、本人・介護者支援などの認知症施策を紹介。2024年には、さらに認知症への理解を広げる取り組みの1つとして「認知症 暮らしやすいまち 高山市」の標語を作成するとともに、オレンジ色の花を咲かせる「オレンジガーデニングプロジェクト」をはじめ、「オレンジライトアップ」「認知症サポーター養成講座」などの活動について語られました。

パネリスト活動紹介3

「生きがいと未来をつくる産業と福祉の取り組み」

木と暮らしの制作所取締役の松原千明氏と、就労継続支援B型・ディーセントワークきりん責任者である喜林グループ経営企画部の岩本奈々氏は、産業と福祉が連携した「IROMU」プロジェクトを通した高齢者の生きがいづくりと社会参加について紹介。役割を持つことで生き生きと暮らす「利用者」、新しいチャレンジにも前向きに取り組む「福祉側」、未利用の材料の活用につながった「産業側」など、3者の変化などについて語られました。

パネリスト活動紹介4

「認知症の人が暮らしやすい地域のコミュニティづくり」

特定非営利活動法人ほのぼの朝日ネットワーク理事長の高井優氏(介護福祉士)は、ほのぼの朝日ネットワークが長年継続する「オレンジカフェ」や「認知症サポーター養成講座」、認知症に関する相談窓口「ほのぼの広場」、家族の会「つどい」などの活動を紹介。認知症にならないことより、認知症なっても安心して暮らせる地域のコミュニティづくりや、本人、家族、地域、スタッフ、みんなにとってやさしい介護、やさしい居場所づくりについて語られました。

パネリスト5名(右・オンライン画面)、コーディネーター2名(左)、コメンテーター古和先生(中央)によるパネルディスカッションの様子

コメンテーターの古和先生からは講評として、認知症基本法施行に伴い共生社会の実現に向けた取り組みが進められている現状にあって、飛騨地区では、まさしくその共生社会の実現に向けて必要なことが1つ1つ実現されていること。アイデアを持つ人たちが出会い、共同し、地域のコミュニティを作ることで共生社会が実現されていくなどのご意見をいただきました。

最後に、本日の総括として犬塚先生から、ご参加いただいた方々への感謝とともに、飛騨地区において生活に密着し、力強く街を作っていこうという若い人たちの活動に感銘を受けたこと、新たな糸口を示していただいたことへの感謝の言葉などが述べられました。

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