2025年03月24日

令和6年度 岐阜県医師会在宅医療人材育成事業「第2回在宅医療連携強化研修会」(2025/2/24開催)

医師研修会

在宅医療人材育成事業の一環として、多職種連携とACP・意思決定支援の実践について学ぶため、2月24日(月)に岐阜県医師会館にて研修会を実施。第1部では「岐阜県医師会版エンディングノート『これからノート』について」、第2部では「ACPの実践を目指して〜あなたならどう答えますか、患者さんのその一言に〜」と題してグループワーク研修を行いました。

開会の挨拶

はじめに伊在井みどり会長から「このような対面による研修会でコネクションを作り、人生会議(ACP)や在宅医療において自身が感じている悩みなども打ち明けられるような関係を作り、多職種連携を深めてほしい」「厚生労働省が提唱する『地域医療構想』のもとでは、病院の病床だけでなく福祉施設や自宅のベッドも大切な資源であり、それを守る大切な人材である皆様に、研修会を通してACPや在宅医療について知識を深めてほしい」との挨拶で開会しました。

開会の挨拶 伊在井みどり会長

第1部「岐阜県医師会版エンディングノート『これからノート』について」

現在、岐阜県医師会版エンディングノート「これからノート」を制作中です。第1部では、参加者に試作版の「これからノート」を配布。参加者から意見を求めるとともに、作成の経緯や方向性、具体的な活用方法などについて佐竹真一常務理事から説明しました。

佐竹真一常務理事

岐阜県内ではエンディングノートが存在しない地域もあり、エンディングノートがある地域でも普及啓発があまり進んでいません。エンディングノートの普及啓発を含め、在宅における看取りの現場で意思決定支援を補完するツールとなり、かつ、救急現場で傷病者の意思に沿った心肺蘇生における医師の指示書となるようなエンディングノートの作成を決定。令和5年度にワーキンググループを立ち上げ「これからのノート」の作成を進め、令和7年3月末には完成予定です。

一般的なエンディングノートは、健康な状態で記入するものであるため、いつ記入すればよいかわからないという声もありました。また、死期が近づいてからのACPでは、延命処置を望むのかなど亡くなる間際の確認となってしまいます。岐阜県医師会の「これからノート」は、病気となり在宅医療が始まる段階や、介護保険を申請した段階に使われることを前提としたものとなっています。

作成にあたっては、既存のエンディングノートには少ない病気を中心としたもの、「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」に沿ったもの、多職種で共有できるもの、患者自身が記入できるものという方向性が示されました。しかし、一般的なエンディングノートには財産や資産、遺言書や相続など、多職種で共有するにはセンシティブな情報が含まれ、健康な段階で延命処置について考えることは困難であるなど見直すべき点がありました。

そのため、多職種の閲覧が望ましくない情報は既存のエンディングノートに記入するなど、既存のエンディングノートと同時並列に存在するもの、家族や多職種と何度も話し合いができるもの、病気について正しい知識を持ち、病気に対する想いや今後の医療・ケアについて話し合いができるもの、在宅医療の手引きとなるものという方向性を含めてまとめました。

その結果、第1章「あなたを支える在宅ケア・介護サービス」、第2章「わたしについて」、第3章「もしもの時の医療・介護ケアの希望」、第4章「旅立ちの時が近づいたら」で構成され、最終ページには岐阜県メディカルコントロール協議会(略称「MC協議会」という。)が指定する書式の「心肺蘇生に関する医師の指示書」を収録。病気を中心とした、おそらく初のエンディングノートが完成しました。

在宅医療の導入の手引書としても利用でき、家族と一緒に何度も話し合いながら記入できる、病気を理解し、今後の病状の見込みがわかった上で延命処置の選択ができる、終末期の状態や救急搬送について説明することで、家族が安心して自宅で看取る体制ができるものとなっています。ACPにおける「情報収集」「話し合い」「記録」「見直し」のツールとして「これからノート」を利用して、希望に沿ったACPや在宅看取りが進むことを望んでおりますので、ぜひご活用ください。

第2部「ACPの実践を目指して〜あなたならどう答えますか、患者さんのその一言に〜」

県北西部地域医療センター長兼国保白鳥病院院長補佐、自治医科大学地域医療学センター地域医療支援部門教授 後藤忠雄先生

2024年2月に在宅医療介護連携推進コーディネーター研修を実施した際にも、後藤先生に講師を依頼し、ACPのロールプレイ研修を行いました。ACPを実体験する研修は参加者から大変好評でした。
今回は、医師や看護師、ケアマネジャー、行政職員など、多職種の方に体験いただくために再企画しました。患者・利用者や家族の言葉をどのように支援するのか、意思決定支援の実践編として多くの方にご参加いただきました。

県北西部地域医療センター長兼国保白鳥病院院長補佐・自治医科大学地域医療学センター地域医療支援部門教授の後藤忠雄先生

アイスブレイク

研修では6名ずつ15グループに分かれて着席した後、アイスブレイクとして自己紹介ならぬ「他己紹介」を実施。2名ずつペアとなってお互いに1分間ずつインタビュー、相手の名前や職種、所属などの情報をグループ内に紹介しました。「満面の笑顔で握手をしてからスタート!」「じゃんけんで勝った人からインタビューして」など、後藤先生の指示のもと笑いも起こり、ペアを組んだ相手とは、わずかな時間でも親近感が生まれました。

他己紹介の様子

ロールプレイその1&ミニレクチャー

次にイントロダクションとしてACPとは何かについて簡単な説明があった後、ロールプレイその1として「想いを拾う練習」を実施。他己紹介でペアを組んだ相手と一緒にシナリオを選び、それぞれが医療・介護職役と患者・利用者役を担当。事前に用意されたシナリオを読み込んで役になりきり、患者・利用者役が自分の想いを医療・介護職役に伝えました。

想いを拾う時の注意点やコミュニケーションスキルについてミニレクチャーがあった後、「攻守交代!」という後藤先生の掛け声のもと、医療・介護職役と患者・利用者役が交代して想いを拾う練習を行いました。その後、「フィードバックタイム」として、どれだけ自分の想いを聞いてもらえたのか、お互いに話し合う時間が設けられ、さらにグループで想いを拾い集めるコツについて共有しました。

参加者からは「1回の出会いで想いを聞くのは難しい、繰り返しが必要」「何を聞くべきか焦点を絞って聞くようにしないとまとまらない」などの声が聞かれました。

シナリオをじっくり読み込み真剣に取り組む参加者

ロールプレイその2&ミニレクチャー

ロールプレイその2では本人、息子、息子の妻、外来看護師、ケアマネジャー、理学療法士などの配役を決め、グループでACPを実施。どんな話し合いだったかを用紙に記録し、グループで共有した後、ACPをどのような手順で進めるべきか、ACPのステップについてミニレクチャーがありました。

その後、同じシナリオ、同じ配役でもう一度ロールプレイを実践。ミニレクチャーで確認したステップを意識しながら「よりよく生きるために」を重視して、グループでACPを実施。ステップを意識することで、どんな話し合いができたかを新しい用紙に記録し、グループで共有しました。

ロールプレイが終了すると、お互いを讃えあうように拍手が沸き起こるなど、配役になりきって熱心にACPに取り組んでいる姿が会場のあちこちに見られました。参加者からは「ロールプレイを通して学んだことを実践に活かしたい」、医師も参加したグループでは「こんな医師がいてくれたらうれしい」などの声が聞かれました。

それぞれの配役になりきってACPを実践

最後にまとめとして後藤先生から「ACPとは、患者・利用者さんについて、どんな想いがあって、どんなケアが必要で、どんな価値観を持っているかなど、大切なことを前もって話し合って実現するためのプロセスであり、会話が大事です。意思表示は『点』ですがACPは『線』。いろんな想いのかけらを拾い集めて、多職種で共有できるように、想いを拾うツールとして『これからノート』をぜひ活用してください。患者・利用者さんには自分の意思が伝えられるうちに『これからノート』を開いてACPを始めましょうと伝えていただき、少しずつでもACPを始めていただけるとありがたいです」との言葉で締めくくられました。

閉会の挨拶

最後に鳥澤英紀副会長から「ACPは、自分の親だったら、自分自身だったらなど、自分ごととして考えるべきこと。1度しかない人生ですから、何が起こるかわかりません。もしがんだったら、脳卒中だったらなど、それぞれの立場を尊重して想いを聞くことが大切」「いろんな職種の方が、長時間に渡って顔が見える環境で話し合いができたことは貴重。ここで得た経験を、現在の職場で同じように議論ができるような場を持っていただきたい」との挨拶で閉会しました。

閉会挨拶 鳥澤英紀副会長

参加者からの感想

アンケートを実施し、研修内容等に関する感想をいただきましたので、いくつかご紹介します。
「亡くなる前の方の揺れる気持ちに寄り添った優しいエンディングノートだと思った。今後の保険運営にぜひ取り入れたい。」「zoomなど、顔を合わせる会議では実感しづらいレスポンスの早さや、グループ間での共有ができ、参加できてよかった。」「グループワークは、大体、グループ内で話し合いをした後に全体で発表する場合が多いが、グループメンバー間だけですすみ、そのあと講師の方から説明があり、分かりやすかった。」などの声をいただきました。

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